労働組合運動の新たな形――「非正規春闘」とは何か(前編)

本日2月15日、非正規雇用労働者の賃上げを求める「非正規春闘」の開始が宣言された。宣言したのは、各地の個人加盟労組(ユニオンという)から構成される「非正規春闘2023実行委員会」だ。本稿では、この「非正規春闘」とは何なのか、そしてなぜ今「非正規春闘」なのか、この運動にはいかなる意義と展望があるかについて論じる。
青木耕太郎(総合サポートユニオン共同代表) 2023.02.15
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労働組合運動の新たな形―—「非正規春闘」とは何か(前編)

目次

・はじめに
・「非正規春闘」とは――16労組300名が33社と交渉へ
・最近の春闘情勢について
・春闘の意義と課題――その歴史の概観を通じて
・新しい賃金運動としての「非正規春闘」

はじめに

 2月15日、非正規雇用労働者の賃上げを求める「非正規春闘」の開始が宣言された。宣言したのは、各地の個人加盟労組(ユニオンという)から構成される「非正規春闘2023実行委員会」で、労使関係のある企業に対して概ね春闘要求の申入れが済んでこれから春闘交渉がまさに本格化するというタイミングでの記者会見となった。

非正規春闘の記者会見の様子(2月15日)
非正規春闘の記者会見の様子(2月15日)

 春闘は、毎春に労働組合が一斉に賃上げを求める運動で、日本で最もポピュラーな労働運動の一つだ。だが、近年は、ほとんど賃上げを実現できず、衰退の一途をたどっていた。なにより、正社員中心の労働組合による春闘では、労働者の約4割を占めるまでになった非正規雇用労働者の賃上げを十分に焦点化できないという明確な欠点があった。

 だが、この間の急激なインフレは、非正規雇用労働者の生活を著しく脅かしており、賃上げの実現は死活問題となっている[1]。なかでも必需品である光熱費や食料品の物価高騰が激しいため、非正規雇用労働者など低所得層の生活に深刻な影響を及ぼしている。インフレの下では、賃金額(名目賃金)が上がらなければ、実質賃金は日に日に低下し、生活水準をいっそう低下させてしまう。そうなれば、もとより貧困状態にある多くの非正規雇用労働者にとっては、命の問題にも繋がりかねない。それゆえ、今年の春闘は、何としてでも、非正規雇用労働者の賃上げを焦点化し実現しなければならないのだ。

ストライキして記者会見に参加した組合員
ストライキして記者会見に参加した組合員

「非正規春闘」とは――16労組300名が33社と交渉へ

 こうした問題意識から、非正規雇用労働者を組織する16のユニオンが結集し、今年1月に非正規春闘2023実行委員会を発足した。活動範囲は全国各地に広がり、首都圏のほか、北海道・宮城・新潟・愛知・大阪などでのユニオンが参加している。また、連合・全労連・全労協所属のユニオンがナショナルセンターの枠を超えて、非正規雇用労働者の賃上げのために結集し共闘していることも特徴的だ。

 非正規春闘2023実行委員会の春闘方針は、全使用者に対する非正規雇用労働者の一律10%賃上げ要求と国に対する最低賃金の再改定の即時実施要求である。

 次に、活動状況についてみていくことにしよう。2月15日の時点で、16の労組が計33社に春闘交渉を申入れている。春闘交渉にかかわる組合員は300名程度、交渉先企業に在籍する総労働者数は12万名程度となっている。春闘交渉の成果は当該企業で同じ立場で働く労働者全員に波及するものであるため、「非正規春闘」の影響を受ける労働者の範囲は12万名程度とそれなりの規模になる。

 「非正規春闘」の交渉先企業の約半数は大手企業で、他は中小零細企業である。業界ごとに具体名をあげると、飲食(かつや、あきんどスシロー、フジオフードシステム)、小売(ベイシア)、コールセンター(KDDIエボルバ)、語学学校(シェーン英会話、GABA、ベルリッツ)、学習塾(市進)などがある。また、中小零細では、自動車製造(愛知県の中小下請で3社)、IT(北海道の派遣会社)、私学(首都圏近郊で5校)、技能実習生(山梨の縫製)などがある。

かつや、KDDIエボルバ、ベイシア、フジオフード、スシロー、シェーン英会話で働く組合員が記者会見で話す様子
かつや、KDDIエボルバ、ベイシア、フジオフード、スシロー、シェーン英会話で働く組合員が記者会見で話す様子

 交渉先の企業は、大手企業・中小零細とも、社内に労組がない企業が多い。一方で、かつやのように非正規雇用労働者も含めて組織する社内労組があるケース、KDDIエボルバのように親会社に社内労組があるケース、愛知県の自動車製造の中小下請企業のように元請(トヨタ)には社内労組があるケースもある。だが、いずれも、当該の非正規雇用労働者からみて、社内労組は非正規雇用労働者の待遇改善に関心がないか、取り組みが不十分であるという。

 また、春闘は、「賃上げ相場」を形成することにより、直接の労使関係がある企業だけではなく、同業他社や他業種にまで賃上げを波及させることを目指す運動でもある。直接的な交渉先である33社・約12万人の労働者のみならず、飲食・小売・コールセンター・語学学習等の産業で働く非正規雇用労働者全体、さらには日本で働く非正規雇用労働者全体へと賃上げを波及させることを目的としている。

 そのために、「非正規春闘」では、労働相談から春闘交渉へとつなげる実践にも力を入れている。上で紹介した33社は、昨年以前に組織化した企業であるが、今後は、賃上げを求めたいという労働相談を受け、個人加盟あるいは職場の組織化に繋げて、春闘交渉を申し入れることで、非正規春闘の範囲や規模をさらに拡大していく方針だ。実際、会見の翌日の2月16日には、2月初頭に労働相談に訪れた靴小売大手・ABCマートで働くパート労働者と共に春闘申入れを行っている。

非正規春闘の一環で経団連前でアピール行動
非正規春闘の一環で経団連前でアピール行動

 労働相談から春闘交渉へと聞くと、驚かれる方もいるかもしれない。しかし、冒頭で述べた通り、今は平時とは状況が異なるのだ。賃上げがされなければ、実質的には賃下げであり、生活水準はいっそう低下してしまう。首相や経団連会長でさえ、今年は、春闘を念頭に「賃上げは企業の社会的責任」という言葉を用いている。つまり、非正規雇用労働者の賃上げをしない企業は「社会的責任」を果たしていない問題のある企業ということになるのだ。だから、賃上げについての労働相談を契機として春闘申入れを行い、その事実を社会に公表し、企業の「社会的責任」を問うことで、賃上げを実現させることは十分可能だと考えられる。実際、2月19日に実施した「非正規雇用労働者のための賃上げ相談ホットライン」には賃上げに関する相談が10件寄せられた。そのうち数名が今後勤務先企業に対して春闘申入れを行う予定だ。

最近の春闘情勢について

 少し脇道に逸れるが、直近の春闘情勢についても何点かコメントしておきたい[2]。まず、イオンのパートなど非正規社員40万人の平均7%賃上げというニュースについてだ。春闘交渉の開始前に会社側の単独発表という形だが、大きな反響を呼んだ。報道によれば、賃上げの理由について会社は、①物価高のなかでの従業員の生活の安定を図るため、②人手不足のなかでの人材を確保するため、と説明しているようだ。ここでは、特に②の理由について注目したい。ここから分かるのは、パート労働市場のひっ迫により、賃上げの誘因が働いているということだ。これを非正規春闘の「追い風」として活用することもできるはずだ。7%賃上げを「十分」とまでは言えないが、現時点の「相場」を大きく超えるラインであり、賃上げ相場を引き上げる効果があることは疑いない。非正規春闘としても、小売業界の同業他社に賃上げを要求する際の一つの基準点となることは間違いないだろう。

 次に、このニュースが生んでいる「誤解」についても触れておきたい。それは、大企業を中心に非正規雇用労働者の賃上げが幅広く実現しているという「誤解」だ。誤解は少し言い過ぎかもしれない。「誤解」というよりはそういう「空気感」とでもいうべきものだ。イオンが40万人の非正規社員の7%賃上げのインパクトが非常に大きかったことや、オリエンタルランド、わかさ生活、ジャパネットたかた、などいくつかの企業で賃上げの動きが報道されたことから、そういう「空気感」が漂っているのだ。

 だが、様々な業種・職種で働く非正規雇用労働者の組合員や、労働相談の相談者からいくら話を聞いても、この間にベースアップが行われたという企業は皆無に等しい。それどころか、このインフレをうけてのコスト削減のためか、パート労働者の賃金が下げられたという相談さえあるのだ。つまり、イオンをはじめとするいくつかの企業の賃上げは、現時点ではまったく広がっておらず、ごく一部の「良い企業」の特殊なケースにとどまっている。イオンの賃上げは報道されるだけで、自然と賃上げの波が広がっていくということはないのだ。

 そうだとすれば、ユニオンによる「非正規春闘」の役割は、パート労働市場の人手不足を背景に、一部の企業の賃上げ実績を活用しながら、同一業界内や地域労働市場における賃上げの競争を促すことにあるといえるだろう。

 非正規春闘は、①労働市場における使用者(求人企業)同士の健全な競争を促すこと、②賃上げという企業の「社会的責任」を果たすよう促す世論を喚起・形成すること、③ストライキを構えて強い決意で賃上げを求めることを通じて、非正規雇用労働者の賃上げを実現していく方針である。

 最後に、中小企業の「価格転嫁」問題と賃上げの関係についてである。この間、中小企業がコスト上昇を価格に転嫁できないことが社会問題化している。国も価格転嫁に応じない大企業の名前を公表するなどして規制を強化している。これは大事なことだ。だが、中小企業がコストを価格転嫁できないことが、賃上げをしない理由(賃上げをできないもっともな理由)として語られることには大いなる違和感がある。先に述べたように、非正規春闘の交渉先の約半数は中小零細企業であり、この問題は非正規雇用労働者にとっても重大な問題だ。どこに違和感があるかといえば、実際に賃上げをしない限り、賃上げコストを価格転嫁することはできないからだ。賃上げをせずに、賃上げをする可能性があるからといって価格転嫁したいと取引先に交渉するつもりなのだろうか。価格転嫁が難しいことを理由に賃上げをしないという経営者の姿勢からは、賃上げをする真剣な意思がないことが窺われる。それゆえ、非正規春闘は、中小企業に対しても非正規雇用労働者の賃上げを要求すべきだし、実際にも要求している。賃上げを実際にした中小企業のコスト増については、当然に価格転嫁されるべきだし、大企業をはじめとする取引企業はそれに応じるべきだという考えだ。

春闘の意義と課題――その歴史の概観を通じて

 次に、これまでの春闘の歴史を振り返りながら、春闘そのものの意義と課題(限界)について見ていくことにしたい。そして、そこから今回の「非正規春闘」が目指すものをより明確化していきたい。

 春闘の起源は、1955年の「8単産共闘」及び56年の総評による春季賃金引き上げ闘争にあるとされる。60年代から70年代半ばにかけては毎年10%超えの賃上げを勝ち取った。また、こうした春闘による賃上げは、中小零細や未組織労働者にも一定程度波及したとされている。その背景には、高度経済成長(企業の成長)、インフレ基調、人手不足(労働市場の圧力)があった。だが、73年のオイルショックを機に、春闘の「連戦連勝」の背景要因であった高度経済成長が終わった。それでも、74年は、消費者物価20%アップの「狂乱物価」のもとで「国民春闘」を展開し、年金など福祉要求もしながら、大幅賃上げを勝ち取った[3]

 だが、75年春闘では、日経連が「賃上げ15%以下」というガイドラインを示したところ、労組側も「賃上げ自粛」のスタンスへと転換した。それ以降、90年代初頭までは5%前後の賃上げ率を推移、90年代後半以降は、定昇込みで1~2%の賃上げにとどまった。2014年以降は、春闘が安倍政権によって「ジャック」され、首相官邸が主導する形で「3%以上」の賃上げを経営側に呼びかける「官製春闘」となった。

 さらに、こうした春闘の機能不全を象徴する出来事が2018年に起こった。2018年の春闘回答で、トヨタ自動車は従来公表してきたベースアップ額を公表しなかったのだ。その最終交渉で豊田社長は「トヨタを見て自社の回答を決めるという慣習が、各社労使の真剣な話し合いを阻害している」と、非公表とする理由を述べたという[4]。この発言は、「社会的賃上げ相場」をつくり賃上げを社会全体に波及させるという春闘の意義を全否定するものである。そして、この豊田社長の発言を受けた形で、翌2019 年春闘では、労働組合側も春闘要求のベースアップ額を非開示とした。春闘のパターンセッターであるはずの、世界に冠たるトヨタ労使がその役目を果たすことを事実上放棄してしまったのだ。

 ここまで見てきた通り、春闘は苦境に立たされてきたが、インフレ情勢下で、再び春闘に大きな注目と期待が集まっている。インフレ時には、「賃上げ相場」を形成して社会全体に賃上げを波及させることは、通常時と異なる大きな意義があるからだ。インフレ率を上回る賃上げが実現しなければ、労働者の生活水準は低下してしまうため、賃上げが死活問題となっているのだ。たしかに、この30年間、労働者の平均賃金は一切上がらなかったにもかかわらず、春闘は衰退一途であった。だが、長きにわたるデフレ経済が終わり、インフレ、それもスタグフレーションのような悪性インフレの時代へと転換したいま、春闘をもう一度新たな形で再生・復活させることが求められているのではないだろうか。

 そのために、従来の春闘の機能とその限界を明確化しておく必要があるだろう。春闘は、主要産業のリーディングカンパニー(パターンセッター)との交渉によって賃上げ回答を引き出し、それを同業他社や他産業の企業へ、さらには官公労部門へと波及させることを目指すものだとされている。大企業⇒中堅企業⇒官公労と賃上げが実現することで「賃上げ相場」が形成され、中小企業や未組織労働者にも賃上げが波及すると説明されてきた。

 他方で、春闘の機能にはそもそもの限界がある。それは、賃上げ額や賃上げ率だけを揃えても、そもそもの賃金格差はいっこうに縮まらないということだ。既存の春闘では、賃上げ率(額)の格差を縮める効果は持ちうるが、賃金額そのものの格差は縮められない。また、実際のところ、非正規雇用労働者は基本的に春闘交渉の蚊帳の外に置かれており、賃上げの波及効果はほとんど見られなかった。正社員と非正規雇用労働者とでは、根本的に賃金設計が異なっており(非正規雇用労働者には定期昇給も一時金も無いことを想起してほしい)、波及効果がみられないのは当然のことともいえる。

 たしかに、正社員労組が非正規社員の賃上げを要求するケースや、非正規社員も含めて組織化するケースもみられるが、多くの場合、正社員主体の労組による非正規社員の賃上げ要求は低い水準にとどまっている。東京新聞がこれを端的に示す調査報道をしているので引用しておく。

「最低賃金の引き上げ額と春闘での非正規賃上げ額(いずれも時給、加重平均)を比べると、2019年秋に最賃が前年比27円上がったのに対し、20年春闘は同27.11円の上昇だった。近年、最賃と翌年春闘の上昇額がほとんどの年でほぼ連動していた。最賃の役割は本来、不当に低い賃金から労働者を守る安全網だった。それが最近は非正規の賃上げを先導しているように見える。実際、政府が最賃を全国平均で1000円にする目標を掲げて16年秋から大幅な引き上げを始めると、17年春闘の賃上げ額は前年より約4円も大幅に上乗せされた。逆に20年秋に最賃がコロナ禍でほぼ上がらなかった時は、翌21年の春闘は賃上げの勢いが鈍った。今年の春闘は12日時点で、非正規の時給引き上げ額が24.72円。昨年の10月に最賃は全国平均で28円上がっており、パートが多く加盟する産業別労組UAゼンセンの波岸孝典氏は「(春闘の賃上げは)最賃引き上げの影響が大きい」と認めた。」

 こうした既存の春闘の機能とその課題を踏まえれば、非正規春闘は、「社会的賃上げ相場」の形成及び賃上げの波及効果という機能を現実のものにしつつ、非正規雇用労働者の低賃金構造や正社員との賃金格差を解消する効果を持つ春闘へとアップデートする必要があると言えるだろう。

新しい賃金運動としての「非正規春闘」

 最後に、「非正規春闘」の賃金論についても検討しておきたい。ここまで見てきた通り、賃金運動としての春闘の限界は、企業を超えて足並みを揃える要求が、賃金額ではなく賃上げ額であることだ。賃上げ額や賃上げ率だけを揃えても、賃金格差は縮まらない。

 だから、「非正規春闘」の賃金要求は、賃上げ額の統一要求から賃金額の統一要求へと発展させていく必要がある。こうした要求には現実の基盤がある。非正規労働者の場合、同一職種・同一地域の労働者であれば、企業間の賃金格差はあまりない。たとえば、スーパーのレジ打ちの仕事を想像してほしい。東京都の郊外なら、おおむね最低賃金の時給1072円から高くても時給1200円程度までの間に収まってしまう。それゆえ、労働組合が賃金額の統一要求を行うことはさほど難しくない。

 また、多くの場合、非正規労働者は長年働いても昇給は、時給換算で+50円・+100円・+200円の世界であり、最低賃金+αの時給から抜け出せない。最近では、最低賃金の上がり幅が以前より大きくなっているため、習熟や職責に応じた昇給分を最低賃金の上がり幅が上回るという現象も起きている。

 実際、非正規春闘実行委員会の賃上げ相談ホットラインには、最低賃金よりほんの少し高い時給のベテラン非正規労働者が自らのスキルや職責に比して賃金が低いと感じて相談したケースや、ここ数年間の最低賃金の引き上げの影響とアルバイトの採用難から新人の時給が上がり、熟練度の高い仕事をしているパート労働者の時給に追いつかれて不当だと感じて相談したケースなどがあった。非正規労働者の自然発生的な賃金要求として、習熟や職責を適切に評価した賃金要求が生まれているのだ。

 以上のことから、「非正規春闘」の賃金論は、同一労働同一賃金要求であり、労働組合が関与する形での職務評価に基づいた職種別・熟練度別の賃金であるべきだと考えられる。

 また、非正規労働者の多くが最低賃金+αの時給であり、最低賃金の影響を受けている現状を踏まえれば、最低賃金引き上げによるボトムアップ型の運動も不可欠である。最低賃金引き上げと春闘交渉は賃金運動の両輪である。両者の関係は、現状では、秋の最低賃金引き上げ額に応じて、春に賃上げ額が決まるという「最賃後追い」となっていることが指摘されているが、「非正規春闘」はこれを逆転させて、春闘賃上げによって秋の最賃引き上げを促進する必要がある。

 後編では、「非正規春闘」に参加している非正規雇用労働者の主体像(どういう社会的属性の人たちなのか)やその背景(なぜ声を上げたのか、どうして立ち上がることができたのか)を描きつつ、「非正規春闘」の意義と展望・射程を示していきたい。


[1] すでに2022年12月の消費者物価指数は前年同月比で4%増を記録している。

[2] この点に限らず、本稿の見解は筆者個人のものであり、文責も筆者個人にある。

[3] 高木郁朗(1976)『春闘論――その分析・展開と課題』労働旬報社。岩崎馨・降籏英明(2018)『春闘の歴史と課題――労働組合の変遷とともに』日本生産性本部生産性労働情報センター。

[4] 産経新聞「2018春闘 「トヨタ以下で」を問題視 異例のベア非公表、牽引役降りた?」(2018/3/14)https://www.sankei.com/article/20180314-YJ66DFDZQ5OWLC5XX4P3FJH34Y/2/

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